第56回カルロヴィ・ヴァリ国際映画祭 [クリスタル・グローブ・コンペティション部門]
第23回東京フィルメックス[コンペティション部門 観客賞受賞]
第44回カイロ国際映画祭 [インターナショナル・パノラマ部門]
第53回インド国際映画祭(ゴア)[シネマ・オブ・ザ・ワールド部門]
ヨハネスブルグ映画祭
フランクフルトNIPPON CONNECTIONコンペ部門
沖縄県のコザで幼い息子を抱えて暮らす17歳の女性が、社会の過酷な現実に直面する姿を描いたドラマ。
沖縄のコザで夫と幼い息子と暮らす17歳のアオイは、生活のため友達の海音と朝までキャバクラで働いている。建築現場で働く夫のマサヤは不満を漏らして仕事を辞めてしまい、新たな仕事を探そうともしない。生活が苦しくなっていくうえに、マサヤはアオイに暴力を振るうようになっていく。そんな中、キャバクラにガサ入れが入ったことでアオイは店で働けなくなり、マサヤは貯金を持ち出し、行方をくらましてしまう。仕方なく義母の家で暮らし、昼間の仕事を探すアオイにマサヤが暴力事件を起こして逮捕されたとの連絡が入る。
「すずめの戸締まり」に声優として出演した花瀬琴音が主人公アオイ役を演じ、映画初主演を果たした。「アイムクレイジー」の工藤将亮監督が、実際に沖縄で取材を重ねて脚本を執筆し、オール沖縄ロケで撮影を敢行した。第23回東京フィルメックスのコンペティション部門で観客賞を受賞。
2022年製作/128分/PG12/日本
配給:ラビットハウス
工藤将亮監督来館予定! 10月14日(土)15日(日)
当館のオープニング映画として公開記念として、「遠いところ」の監督、工藤将亮(くどうまさあき)さんが来館いたします。以下がご挨拶のスケジュールです。
14日(土)
3回目(16:30ー)上映後、4回目(19:30ー)上映後
15日(日)
1回目(10:30ー)上映後、2回目(13:30ー)上映前
主催:シネマポスト、一般社団法人コミュニティシネマセンター
助成:文化庁文化芸術振興費補助金(舞台芸術等総合支援事業(次代の文化を創造する新進芸術家育成事業))
独立行政法人日本芸術文化振興会
経歴
ビジュアルアーツ専門学校大阪、放送映画学科卒業。専門学校在籍中に京都の撮影所でエキストラや美術のバイトなどで働き出す。卒業後、松竹京都撮影所に演出部として入社。時代劇からファンタジー作品など数多くの作品に携わる。その後、東京に移り活動の場を広げる。主に師事した監督として森田芳光、行定勲、石井岳龍、東陽一などがいる。
2017年初監督作品「アイムクレイジー」を製作。同作は2018年第22回プチョン国際ファンタスティック映画祭に出品され、最優秀アジア映画賞(NETPAC賞)を受賞する。
2020年コロナ禍の中で製作した「未曾有」が2021年第25回タリンブラックナイト映画祭に正式出品される。
三作目である「遠いところ」が2022年7月、第56回カルロヴィ・ヴァリ国際映画祭のメインコンペティションに選ばれる。
作品
映画
アイムクレイジー(2019年、ザフール)–監督・脚本
未曾有(公開未定、アレン)–監督・脚本・編集・共同プロデューサー
遠いところ(2023公開予定、ザフール/アレン)–監督・脚本・編集
テレビ
ワカコ酒 Season 2 「第7話」「第8話」(2016年、BSジャパン、テレビ東京)–監督
ミュージックビデオ
クリスマス/サニーデイ・サービス(2017年、12月25日)–監督・脚本・編集・製作
助監督
闘茶〜Tea Fight〜(2008、ムービーアイ)–助監督
アルカナ(2013年、日活)–助監督
うつくしいひと(2016年、セカンドサイト)–助監督
幼な子われらに生まれ(2017年、ステューディオスリー)–助監督
うつくしいひと サバ?(2017年、セカンドサイト)–助監督
主な受賞
2018年 - 第22回プチョン国際ファンタスティック映画祭 - 最優秀アジア映画賞(『アイムクレイジー』)
あらすじ
沖縄県沖縄市 コザ。17歳のアオイは、夫のマサヤと幼い息子の健吾(ケンゴ)と3人で暮らしている。
おばあに健吾を預け、友達の海音(ミオ)と朝までキャバクラで働くアオイ。マサヤは仕事を辞め、アオイへの暴力は日に日に酷くなっていく。キャバクラで働けなくなったアオイは、マサヤに僅かな貯金も奪われ、仕方なく義母の由紀恵(ユキエ)の家で暮らし始める。生活のために仕事を探すアオイだったが、そこには一筋縄ではいかない現実があった
解説
2020年代に入って国際的な映画賞や映画祭では、“社会的に過酷な立場に置かれた女性の姿”を描いた作品が高い評価を得ている。例えば、第77回ヴェネチア国際映画祭で金獅子賞に輝き、第93回アカデミー賞では作品賞に輝いた『ノマドランド』(21)はその代表だろう。その潮流は、第78回ヴェネチア国際映画祭の金獅子賞に輝いた『あのこと』(21)、第70回ベルリン国際映画祭で銀熊賞に輝いた『17歳の瞳に映る世界』(20)など、若い世代の女性たちが社会の過酷な現実と静かに闘う姿を描く映画を輩出させた。
日本でも不法に働くベトナム人女性たちの姿を描いた『海辺の彼女たち』(21)や、日本で育ったクルド人の女子高生が、突然の難民申請不認定の理不尽さに対峙する姿を描いた『マイスモールランド』(22)が劇場公開されている。若手映画監督たちが“社会的に過酷な立場に置かれた女性”を描くことで、社会に対して問題提起を行い、インディーズ映画界で気炎を吐く傾向を生み出しているのだ。
『遠いところ』(23)も、斯様な映画製作の国際的潮流に合致する作品なのである。この映画は沖縄市のコザを舞台に、幼い息子と夫との3人暮らしをする17歳のアオイ(花瀬琴音)が、社会の過酷な現実に直面する姿を描いている。沖縄では、一人当たりの県民所得が全国で最下位。子ども(17歳以下)の相対的貧困率は28.9%となっている。相対的貧困率の全国平均が13.5%であることを考慮すると、沖縄の厳しい現実が浮き彫りとなる。
現在、沖縄は非正規労働者の割合や、ひとり親世帯(母子・父子世帯)の比率でも全国1位だという現状にある(2022年5月公表「沖縄子ども調査」)。さらに、若年層(19歳以下)の出産率でも全国1位となっているように、窮状は若年層に及んでいることが窺える。2015年以降、 “子どもの経済的困窮”や“シングルマザーの実態”、或いは、“DV(ドメスティック・バイオレンス)のメカニズム”を取材したルポルタージュが、日本で同時多発的に出版されてきたという経緯がある。本作では構想に3年を費やし、それらの書籍に登場する若者に似た環境で生活する少女たちを、脚本開発のために独自取材をしている。
小説や漫画などの原作を基に映画化された作品が量産されている日本映画界において、この映画はオリジナル脚本の作品として製作されているのも特徴のひとつ。繁華街を拠点にする若者から、生活困窮者に対する支援団体に至るまで徹底的な取材を重ねて、社会的にも経済的にも困窮した若年層の過酷な現実を脚本に投影させている。またリアリティを追求するために、予算が潤沢ではないインディーズ映画ながら、全編沖縄ロケにこだわって撮影されている点も重要だ。
本作の監督は長編デビュー作『アイム・クレイジー』(19)で、第22回富川国際ファンタスティック映画祭NETPAC賞(最優秀アジア映画賞)に輝いた工藤将亮。森田芳光、滝田洋二郎、行定勲、白石和彌など、日本映画界を代表する映画監督の現場で助監督を務め、幅広いジャンルの作品で実績を積んできたという経歴がある。
長編映画3作目の『遠いところ』は、第56回カルロヴィ・ヴァリ国際映画祭で最高賞を競うコンペティション部門に正式出品。全世界から応募のあった約1500本の映画の中から12本のコンペティション作品のひとつに選ばれ、現地でワールドプレミア上映が行われた。
メインコンペティションであるクリスタル・グローブ・コンペティション部門に日本映画が選出されたのは、実に10年ぶりのこと。『遠いところ』は上映前の評価も高く、約1200席ある上映会場のチケットは事前に完売。上映後は約8分間にわたるスタンディング・オベーションによって、観客から熱狂的に迎えられた。現地メディアからも絶賛の嵐で、映画祭のゲストとして参加していたアカデミー賞俳優のジェフリー・ラッシュからも賞賛された。
この映画で主人公アオイを演じたのは、これが映画初主演となった花瀬琴音。彼女は撮影前の1ヶ月間、実際に沖縄で生活している。自身の素性を隠しながら、映画のモデルとなったキャバクラ店で働くなど、徹底的な役作りを行なった。その結果、東京生まれ・東京育ちである彼女が、沖縄在住の方々から見ても、違和感なく“沖縄で生まれ育った若者”に見えるアオイ像を体現。工藤将亮監督は、彼女の風体を「まるで野良犬のようだ」と評している。
アオイの友人役・海音を演じた石田夢実も、本作が映画初出演。作品のリアリティを重視したいという製作側の想いから、主要キャストは新人もしくはデビュー間もない俳優が起用されている。また石田夢実をはじめ、アオイの夫マサヤ役を演じた『衝動』(21)の佐久間祥朗など、オーディションで選ばれた若手俳優たちが、花瀬琴音と同様に撮影1ヶ月前から現地に入っている。沖縄市コザで実際に生活することによって体感したリアルな感覚は、各々が演じる役に反映。彼らをキャスティングしたことが、『遠いところ』のリアリティを際立たせる要因のひとつにもなっている。
一方、脇を固める出演陣には、沖縄を代表する俳優で、朝ドラ「ちむどんどん」にも出演している吉田妙子や、『義足のボクサー』(21)の尚玄など、沖縄に所縁のある俳優を配置。さらに『罪の声』(20)の宇野祥平、『妖怪シェアハウス』(22)の池田成志、『辻占恋慕』(22)の早織、『夜明けの夫婦』(22)の岩谷健司、『あいが、そいで、こい』(19)の髙橋雄祐、『ケンとカズ』(16)のカトウシンスケ、『偶然と想像』(21)の中島歩、『47RONIN』(13)の米本学仁など、工藤将亮監督の熱意に賛同した実力派俳優たちが集結している。
本作のプロデューサーであるキタガワ ユウキは、企画立ち上げから関わった日本・ミャンマー合作映画『僕の帰る場所』(17)で出演と共同プロデューサーを兼任している。先述の『海辺の彼女たち』にも制作協力するなど、“子どもの貧困問題”をモチーフにした国際的な映画製作を実施。また、工藤将亮監督の長編2作目『未曾有』(21)でプロデューサーを担当した縁は、本作を製作する原点にもなっている。
『遠いところ』で描かれているのは、沖縄における局地的な社会問題などではない。むしろ性別や年齢を問わず、世界中のどこでも起こりうる事象なのだと描かれている点が重要なのだ。社会の理不尽と不条理を突きつけられ、悲痛な想いを抱いて絶望しながらも、“生”を渇望するアオイの姿。ひとりの母親が抱く我が子への想いよって、極限の人間ドラマが動き出す。格差社会が拡大するこの国において、“子どもの貧困問題”に対する多角的な議論を促すような令和の野心作がここに誕生した。
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