第79回 カンヌ国際映画祭(2026年) コンペティション部門正式出品
第59回 カルロヴィ・ヴァリ国際映画祭(2025年) ヨーロッパ・シネマズ・レーベル受賞
チェコ映画評論家賞(2025年) ベスト映画賞受賞
チェコ・ライオン賞(2026年) 主演女優賞受賞
美しいハーモニーの裏で、何が起きていたのか。
チェコ映画界の新鋭オンドジェイ・プロヴァズニークが監督・脚本を手がけた、チェコ・プラハの名門少年少女合唱団「バンビーニ・ディ・プラーガ」をめぐる実在の性的虐待事件に着想を得て制作されたドラマ。ひとりの少女のまなざしを通して、才能と成功、そして沈黙が結びつき歪められていく過程を映し出す。
2025年製作/106分/チェコ
原題または英題:Sbormistr
配給:クレプスキュールフィルム
あらすじ
カンティチェラ少女合唱団――「名門」と呼ばれ、入団希望が絶えないこの合唱団で、ヴァレリエはBチームに所属し、選抜チームの姉ルチエの背中を追っている。ある日、稽古を終えた姉を待ちながら、ヴァレリエは練習室をのぞき見る。少女たちの歌声に、指揮者ヴィーテクの声が重なった瞬間、空気が変わる。やがてヴィーテクはBチームの練習に現れ、ヴァレリエを指名する。ひとりで歌い終えた彼女に、「ありがとう、それでいい」とだけ伝え去っていく。春のアメリカ公演が発表され、会場は家族や関係者が集う。にぎやかな場に馴染めずにいるヴァレリエへ、ヴィーテクは「ソプラノだったね。悪くない」と声をかける。少し離れた場所では、ルチエが仲間たちと親しげに笑っていた。その夜、ルチエは約束の門限の時間を過ぎて酔って帰宅する。どこか様子は荒れ、何かにひどく苛立つ彼女。父の迎えの車中でも、ルチエは口を閉ざした。父がヴィーテクに話を聞こうとすると、「行かないで」とだけ言う。ヴァレリエは、そのやり取りを黙って見ていた。やがて海外ツアーを前に、選抜メンバーを決める雪山合宿が始まる。欠員の代役として呼ばれたヴァレリエに、ヴィーテクは楽譜を手渡し、「覚えなさい」と告げる…。
解説
少女の歌声は、なぜ沈黙に変わったのか ───
チェコを揺るがせた衝撃の事件。
共産主義体制が終わり、社会が少しずつ西側諸国へと開かれていった1990年代初頭。社会全体に自由の空気が満ち、希望と同時に無防備な欲望も膨らんでいた時代を背景に、『ブロークン・ヴォイス』はひとりの少女のまなざしを通して、「才能」「成功」そして「沈黙」がどのように結びつき、歪められていくのかを静かに、しかし深い痛みを伴って描き出す。物語の着想となったのは、日本でも公演を行い広く知られていたプラハの名門少年少女合唱団「バンビーニ・ディ・プラーガ」をめぐる実際の事件だ。同合唱団の指導者ボフミル・クリーンスキーは2004年、少女たちへの性的虐待容疑で逮捕され、1984年から2004年にかけて少なくとも49人が被害を受けていたことが明らかになった。
チェコ映画界の新鋭が手掛ける
沈黙が生まれる瞬間を描いた映画
監督・脚本を手がけたのは、チェコ映画界の新鋭オンドジェイ・プロヴァズニーク。本作は彼にとって長編第二作目にあたる。監督は、この物語を最初から「告発」や「断罪」として描くことをあえて選ばない。カメラは一貫して、13歳のヴァレリエの視点に寄り添い、彼女が“選ばれる”ことに感じる喜びや誇らしさを丁寧にすくい取っていく。指揮者ヴィーテクに目をかけられ、特別扱いされることは、ヴァレリエにとって自分の価値が認められた証であり、大人の世界へ近づくための通過点のように映る。しかし、その親密さが何を意味するのかを、彼女自身はまだ理解できていない。主人公ヴァレリエを演じたカテジナ・ファルブロヴァーは、これが初出演とは思えないほど、思春期の少女が抱える不安や高揚を繊細かつ力強く表現し、チェコ・ライオン賞主演女優賞を受賞。撮影当時、彼女自身も役と同じ13歳であり、劇中で歌われる楽曲はすべて本人による歌唱だ。映画内の合唱シーンはすべて撮影現場でライブ録音されており、少女たちの息づかいや緊張感が、そのまま音として刻み込まれている。指揮者ヴィーテクを演じるユライ・ロイは、魅力と恐怖が同時に立ち上がる存在感で、単純な「悪役」には回収できない権力者像を形づくる。
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