“令和の浮世絵版画”に挑戦する職人たちを追うドキュメンタリー
江戸の浮世絵技術を現代に受け継ぐ「アダチ版画研究所」で、現代アーティストの作品を版画にするプロジェクトに挑む職人たちの仕事を追ったドキュメンタリー。
監督は『≒草間彌生 わたし大好き』(08)、『氷の花火 山口小夜子』(15)、『掘る女 縄文人の落とし物』(22)の松本貴子。ロッカクアヤコの指先から生まれる色の重なりや、草間彌生の迷いのない筆使いを超クローズアップで撮影した創作風景はアートファン必見。『べらぼう』の時代では男性中心だった世界に若い女性職人が増え、地方在住でも子育て中でも摺師の仕事は両立可能という現実も教えてくれる。
2025年製作/109分/G/日本
配給:Stranger
あらすじ
江戸時代に隆盛を極め、ゴッホなどの印象派にも影響を与えた浮世絵版画。令和の今、江戸の美意識と技術を継承するアダチ版画研究所が、“現代の浮世絵”を創造する一大プロジェクトに挑戦した。絵師は草間彌生、ロッカクアヤコ、ニック・ウォーカー、アントニー・ゴームリーなど、38名の世界的アーティスト。古典的な浮世絵とは違う世界観と多様な表現にたじろぐ若き彫師と摺師たちは、絵師の鋭い指摘に苦悩しながらも、職人としての矜持から粘り強く原画の美を掬い上げていく。カメラは浮世絵の新たな世界を模索し、殻を破る職人たちを追う。
解説
江戸の技、令和の感性
時代を超えたセッション
浮世絵人気を支えるのは、1928年(昭和3年)創業のアダチ版画研究所である。江戸時代後期に、世界最高峰といわれるまでに発展した浮世絵の版画技術を守り、継承することまもなく100年。アダチ版画研究所は創業者の安達豊久が「浮世絵文化によって培われた伝統木版画の魅力を、多くの人に伝えたい」と立ち上げた版元だ。現在は版元、彫師、摺師が1つ屋根の下に集う社屋兼工房を東京・目白に構え、江戸時代と同じ材料と制作方法で浮世絵復刻版を制作している。会長の安達以乍牟には時代ごとに支持されるものに関わり続け、浮世絵の可能性を広げていきたいという考えがあった。安達会長始め、前社長の中山年や現社長の中山周の3人は、現代の絵師との出会いをコンセプトに、国内外で活躍するアーティストとのコラボレーションに取りかかった。安達会長自らがまず最初に口説いたのは、日本を代表する前衛芸術家の草間彌生だ。浮世絵とのコラボレーションに目を輝かせた草間は、想像を超えた完成作にほれぼれとしていた。 この成功からプロジェクトは2019年に本格的に始動する。オファーしたのは、色彩のシャワーが幸福感をもたらす新進気鋭のロッカクアヤコ、ニューヨークで活動するストリートアーティストのニック・ウォーカー、パブリックアート作品で知られる彫刻家アントニー・ゴームリー、厚塗りした絵の具の筆を残す「対話」シリーズの李禹煥(リ・ウファン)など、国内外で活躍する作家たち。浮世絵と自作とのケミストリーに好奇心を隠せない彼らがアダチ版画研究所に託した原画は、古典的な浮世絵とはまったく違う世界観と多様な表現に満ちていた。 彫師歴18年の岸千倉、摺師歴15年の岸翔子や後輩の鈴木茉莉奈たちは、それぞれの絵師が提案するアイデアにたじろぎ、細かな模様や微妙なグラデーションに息を凝らす。しかし、職人としての矜持から粘り強く原画と対峙し、バレンと小刀を頼りに原画の意図と美をていねいに掬い上げていく。妥協のない絵師の指摘に苦悩しながらも試行錯誤を重ね、浮世絵の新たな世界を模索する彼らに、殻を破る瞬間が訪れた。
オフィシャルサイトはこちら >>

